史料紹介 #4 ヘロドトス『歴史』 1

スポンサーリンク

ヘロドトス『歴史』とは

ヘロドトス (前484年ごろ-430年以降) はローマのキケロによって「歴史の父」と称された古代ギリシアの歴史家です。『歴史』はそんな彼の代表的な歴史書です。彼がそれを書こうと思った背景は、同書の冒頭で以下のように述べられています。

本書はハリカルナッソス出身のヘロドトスが、人間界の出来事が時の移ろうとともに忘れ去られ、ギリシア人や異邦人の果たした偉大な驚嘆すべき事績の数々――とりわけて両者がいかなる原因から戦いを交えるに至ったかの事情――も、やがて世の人に知られなくなるのを恐れて、自ら研究調査したところを書き述べたものである。(ヘロドトス (松平千秋訳)『歴史』)

著作『歴史』は岩波文庫から松平千秋訳で上・中・下の3巻本として出版されており、日本語でも容易に触れることができます。本記事では、そのうち上巻について触れることにしましょう。

ヘロドトス『歴史』の面白さ

松平訳の『歴史』上巻は巻一 (クレイオの巻)、巻二 (エウテルペの巻)、巻三 (タレイアの巻) の 3つを扱っています。

その面白さはまず、なんといってもその壮大なスケールにあるでしょう。ヘロドトスは自身が自ら調査した内容や聞き知った話を踏まえ、ギリシアにとどまらずペルシアやエジプトも含めた壮大な「人類の」歴史を描こうとしているのです。

クレイオの巻ではギュゲスから始まるリュディア王国の古史が扱われています。とりわけ最後の王クロイソスの叙述は豊かであり、彼の王国が当時勃興したアケメネス朝ペルシアによって滅ぼされる経緯がドラマチックに描かれています。どこか物語調の著者の記述は、歴史 (ヒストリー) と物語 (ストーリー) が同じ語源であることをよくわからせてくれます。

その後、話はキュロスによるアケメネス朝ペルシアの創生史へと移り、彼がどのようにして王朝を打ち立てたか、また、その後どのように版図を広げていったのかが描かれています。小アジアやバビロンの遠征に関する話は、純粋に読み物としても面白いですし、叙述史料として当時のペルシアの様子を伝える貴重な史料とも言えます。

続くエウテルペの巻では、キュロスの子カンビュセスによるエジプトの遠征に始まり、いったんメインは古代エジプトの地誌や代々の王の歴史に移っていきます。特にエジプトの人々の風習に関してはかなり多くの紙幅が割かれており、地誌学者としてのヘロドトスの手腕がいかんなく発揮されていると言えるでしょう。

タレイアの巻ではカンビュセスによるエジプト遠征に話が戻り、その後ガウマタの乱を経てダレイオスによる王位の獲得と国内統治の話が描かれています。ペルシアの動乱を描いたこの巻は、当時のペルシアの歴史を知る上でも非常に参考になります。

まさにヘロドトスの目から見た「世界史=人類史」とも言えるような歴史叙述です。 興味のある方は、ぜひ一読してみてください。