DAUに関する覚書

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DAU維持のパラドックス

PCのオンラインゲームやスマートフォンのアプリゲームを運用している中で、おおよそすべてのタイトルに課題として降ってくるものが 減少し続けるDAUの維持 ないしは ゲームの継続率の向上 であろう。

基本的なことではあるが、ビジネスとしてゲームを捉え際に売上は ユーザー規模 x 客単価(ARPU) で表現されるため、一定の売上を上げ続ける、もしくは売上の向上を図る際にはこのどちらかの KPI を向上させる必要がある。

そして客単価は施策や商材の性能によってある程度コントロールしやすい(とはいうものの、短期的かつ無計画な客単価の向上試作はユーザーの課金疲れやリソースの充足、さらにはゲームの寿命短縮に繋がるため基本的には避けた方がよい)ため、ともすればそれがもたらす影響やリスクに関しては十分に議論されることなく実施され、そして一時的な売上を生み、短期的な一喜一憂をチームにもたらす。

それに対し、DAUの減少は往々にして課題としての深刻度が大きく、中長期的な視点では対策が必要で、焼け石に水的な施策が意味をなさない問題であるにもかかわらず(ないしはそれゆえに)、根本的な課題解決にはなかなか動くことができず、短期的なバラマキ施策によって一時的な難をしのぐ策が採用され、結果としてそれが長期的なリソースの充足に帰結し、結果として前よりもさらに事態が深刻になるといったケースもまれではない。

ゲームの継続率の向上は一朝一夕には成しえないし、焼け石に水的なその場しのぎの策を当てたところで一切改善するものではない。しかし多くのタイトルは前者ではなく後者を採用し、ないしはその場しのぎの施策で前者に対応するようなそぶりを見せ、結果的にズブズブとKPIがグラフの底に向かって沈没していくような趨勢をたどってしまう。それほど、DAUを維持するということ、ゲームの継続率をあげるということは難しい課題なのだ。

ノイズまみれのDAU

ゲームの運用において、おそらく利用ユーザーの規模を表すもっとも基本的かつよく使われている指標は DAU(daily active user)であろう。HAUやWAUやMAUや果てにはQAUみたいな指標もあるにはあるが、日々ゲームの運用で監視し、目標にしていく数字としてはDAUが一定妥当性があると私自身は思っている。また、DAUから得られる情報や気づきにはある程度限界がありつつも、それでもDAUを見てわかることも少なくない。

だがいかんせん、DAUにはノイズが多分に含まれている。それは曜日要因であったり、ゲーム内の施策によるものであったり、他のゲームがリリースされたことやプレミアムフライデーがあったなどといったゲーム外の要因であったり...とにかくDAUはそういった様々な要因に影響されて激しく増減する。なのでDAUを見るときには、そもそもそういった様々なノイズによって動くものだということを忘れてはいけない。

それゆえ、そんなノイズだらけの指標の増減に過剰に反応して意思決定を行うのも極めて危険である。もちろん、かすかな兆候から危険を察知して予め対策を取れる準備を行っておくといったものなら良いものの、一時的にDAUが上がっただけで過剰に喜んだり、逆に暫時的な減少に過剰に反応してバラマキ施策を打つなんてことは避けた方がよい。ましてや日々ゲーム内のKPIを追うという言葉をはき違えて、日次単位で目標値を割っていたからリソースをバラまいて帳尻を合わせようとするなど、無策の極みと言わざるを得ない。

タイトルの長期運営にとって本当に必要なのは一時的に明日のDAUを確保することではない。中長期的な視点で、ユーザーの継続やDAUの維持・積み上げが安定的・継続的にになされているかどうかだ。

華々しきイベントの成功、あるいは単なる焼け石に水

ゲームの運営をやっていると、大型のイベントを打ったことで期間中の盛り上げを作ることができ、それによってそのイベントの期間中はDAUの向上も含めてゲームの活性化に繋げることができた...という状況を目にすることがよくある。

この場合、ゲームの盛り上げは単に DAU を見るのではなく、もう少し別の指標(例えば以下のスライドにあるような指標など)を用いることが多く、高頻度でログインしてくれるユーザーの数をどう増やし・維持していくかが焦点になるケースも少なくないと思う。

www.slideshare.net

だが例えば仮に、例えばDAUの減少に悩まされ続けている架空のタイトルAが大々的なイベントコンテンツを開発し、それの初回リリースを行った結果ユーザーのウケも上々で、高頻度ログインユーザーの増加がみられた(=ゲームとしての盛り上がりを作れた、継続率の向上に繋げられた、さらにはそこからDAUの維持・上昇にプラスの影響がみられた)とする。

その場合、おそらく多くの人はそのイベントは成功で、ゲームの運営にも大きく貢献してくれたと思うだろう。もちろん、単発のイベント施策の評価としては、そのような考え方は全然間違っていないと私も思う。

ただ問題なのは、その後だ。そのイベントは期間中に上々の盛り上がりを作れたものの、イベント終了と同時にユーザーの継続率は一気に低下し、一時的に増加した高頻度ログインユーザーの数もすぐにもとの水準にまで戻ってしまったとする。もちろん、それと相関の強いDAUも、イベント終了とともにガクッと低下している。

その際、果たしてそのイベントの終了後まで含めたゲームの運用としては、果たして成功と言えるのだろうか。辛辣な言い方をするならば、多大な工数をかけて開発・運用を行っており、確かに期間中は一時的な盛り上がりが作れているものの、それが終わった途端にもとの状態に逆戻り。そうなった場合、中長期的な視点において、そのイベントは果たして意味があったと言えるのだろうか。

もちろん、イベント単発のKPIであったり、イベントそもそもの目的がDAUの維持・向上でない(たとえば、客単価を上げるなど)の場合、話は全然別物だ。だがもしそのイベントの目的がDAUの維持・向上であるならば、その開催期間中にしか効果を及ぼさないようなものは果たして成功と呼べるのか...安直に直近のKPIの動向だけを見て一喜一憂することの愚かさを改めて確認するべきであり、運用としては、そういった単発のイベントの成果を上げにいくだけでなく、イベントスケジュールの最適化であったり、ゲームの構造改善であったり、もう少し中長期的な視点から個々のイベントや施策の成否を判断する必要がある。そしてこの観点をもって運用をできているかどうかで、着実にDAUを積み上げていくような構造が作れるか、はたまた自転車操業的なせわしない運営スタイルになるかが決まってくるのだ。