もう出版されてから1年ほど経ちますが、ゲーム業界における海外のユーザーリサーチ動向を学ぶために Games User Research という本を買いました。
その読書メモをつらつらと書いていこうと思います。
まずは最初の章である「ゲーム産業における開発プロセスの一部としてのゲームユーザーリサーチ (Game User Research as part of the development process in the game industry)」です。
筆者は EA (Electronic Arts) の UX Research Director を務める Veronica Zammitto 氏。
内容メモ:GUR のベストプラクティス
ゲーム開発におけるユーザーリサーチ適用のプロセスとベストプラクティスについて書かれていました。
GUR (Game User Research) が本格的に海外のゲーム業界で盛んになり始めたのは 2000年代に入ってからですが、その後急激に発展を遂げ、今では論文やカンファレンスでの報告も含めて盛んに活動が行われています。
業界での GUR の端緒となった出来事が、1997年に Microsoft が UX Researcher の職を置いたことなのだとか。
2018年現在では、スタジオや企業規模の大小を問わず、様々な会社で GUR に携わるスタッフが在籍しているそうです。
人数規模で言うと特に EA, Riot, Ubisoft あたりが多く、UX Researcher、Analyst、Data Scientist を含めたリサーチ組織にそれぞれ 110名、70名、105名のスタッフが在籍しているのだとか。
心理学、CS (Computer Science)、HCI (Human Computer Interaction) の修士、博士号取得者が多数在籍しており、この辺はさすが欧米の企業という感があります。
次に、GUR の組織形態についての話がありました。
GURの組織形態は「分散型 (Decentralized: リサーチ組織が各拠点に存在するパターン)」や「集中型 (Centralized: リサーチ組織が一か所に固まっているパターン)」、さらには両者を組み合わせた「ハイブリッド型 (Hybrid: 本部組織から各プロジェクトにリサーチャーがアサインされる形態)」があるとのことですが、重要なのはそれぞれの形態の長所 / 短所を理解した上で、企業の戦略や文化に即した組織形態をとることだと筆者は主張しています。
長所と短所の話としては、例えば分散型になるほど開発チームに入り込んでコミットしやすい一方、知見の集約やメンバーの育成、ピアレビュー等に難がある。集中型はその逆で、メンバーが集まっているので知見の集約や育成はすごくやりやすいが、開発チームからの距離が遠くなるため、コミュニケーションや関係値の構築といったところで課題が生じやすいとのこと。
ちなみに、Ubisoft は分散型、Micrsoft は中央型、Riot はハイブリッド型らしいです。
また話は変わりますが、本文中ではゲーム開発フェーズにおける GUR についてのモデルケースがまとめられており、非常にわかりやすかったので紹介します。
各フェーズとその成果物、それに対してのリサーチ手法という形でまとめています。
Pre-Production フェーズ
・Concept: ゲームコンセプトの具現化
⇒ 競合分析
・Documentation: いわゆる企画書:
⇒ UX vision と 理想的な player experience の策定
・Prototype: プロトタイプ:
⇒ コアループの usability test
Production フェーズ
・Alpha: コアゲームプレイが実装された状態:
⇒ ゲームのフィーチャーの usability test や player experience の評価
・Beta: すべてのコンテンツが実装された状態:
⇒ 一通りプレイしてもらう (full-playthrough) 中でのテスト
・Gold: 正式版として公開できる状態:
⇒ 最終調整用のプレイテスト
Post-Production フェーズ
・アップデートやパッチなどコンテンツが追加される際に usability test やバランス調整、player experience 評価
また、これは筆者の所属する EA での事例ではありますが、リサーチの企画設計~結果報告までのプロセスはわりと一般的ではあるものの、EA では結果報告後に JIRA や Hansoft を使って issue 化する動きを行っており、これによってリサーチ結果をちゃんと改善タスクに落とし込んで推進することで、GUR のインパクトをトラッキングできるとようにしているのだそうです。
この辺りはリサーチを調査結果の報告までで終わらせるのではなく、それをサービスに生かそうとする会社の姿勢や文化がうかがえてよいですね。