Games User Research の読書メモ。 前回に引き続き、GUR の手法を論じた章から今回もピックアップしました。第8章の「プレイヤー調査のための枠組み (A framework for player research)」です。
筆者はイギリスに拠点を置くゲームリサーチ会社である Player Research の創設者 Graham Mcallister と同社の Games User Researcher を務める Sebastian Long 氏。
本記事中に掲載されている図表はすべて上記章の本文中からの引用です。
内容メモ
Player Research 社で使われている8つの調査手法に関して、それぞれがどのようなケース / 開発段階で有効かを説明している章です。
その際、ゲームの UX を4~5段階のレイヤーに区分してモデル化し、各調査手法がどのレイヤーの課題に特に答えてくれるものなのかが分かりやすく説明されています。
ゲーム UX のレイヤー
筆者らはまず、ゲームの UX を5つのレイヤーからなるモデルと、4つのレイヤーからなるモデルに区分して論じています。両者の違いは最上位にマネタイズレイヤーがあるか否かであり、それが存在する前者は主に F2P ゲームの評価で、そのレイヤーがない後者は買い切り型のゲームの評価で使われています。下記が双方のモデルを構成するレイヤーの一覧です。
5レイヤーモデル (F2Pゲームの評価で使用)
- 訴求レイヤー (Appeal)
- ダウンロードに繋がるまでのプレイヤーに対する訴求の良し悪し
- 理解レイヤー (Understanding)
- プレイヤーがゲームのルールを理解できているか
- ユーザビリティレイヤー (Usability)
- デザイナーの意図通りにプレイヤーが行動しているか
- プレイヤーエクスペリエンスレイヤー (Player Experience)
- ゲーム全体でのプレイヤー体験の良し悪し
- マネタイズレイヤー (Monetization)
- アプリ内課金や広告閲覧などによる収益化の良し悪し
4レイヤーモデル (買い切りゲームの評価で使用)
- 訴求レイヤー (Appeal)
- 理解レイヤー (Understanding)
- ユーザビリティレイヤー (Usability)
- プレイヤーエクスペリエンスレイヤー (Player Experience)
4つの開発フェーズと8つの調査手法
次に、本文中ではゲームの開発における4つのフェーズと、それぞれに対応する8つの調査手法について順に述べられています。それはすなわち以下の通りです。
- コンセプトフェーズ (Concept)
- コンセプトテスト (concept test)
- UX競合分析 (UX competitor analysis)
- プロトタイプフェーズ (Prototype / Design)
- 共同デザイン (collaborative design)
- 専門家によるユーザビリティ分析 (usability expert analysis)
- プロダクションフェーズ (Production)
- ユーザビリティプレイテスト (usability playtest)
- 大規模プレイテスト (large-scale playtest)
- ローンチフェーズ (Soft launch / Launch)
- エンゲージメント日記調査 (engagement diaries)
- 分析ドリブンのプレイテスト (analytics-driven playtest)
各調査手法に関しては、下記の通りまとめられていました。
コンセプトテスト (concept test)
- どういう問いに答える調査手法か
- どのアートスタイルのほうがプレイヤーは好むか
- どの機能をプレイヤーはより好むか
- プレイヤーはなぜ特定のジャンルをプレイするのか
- プレイヤーはなぜアプリ内課金をするのか、しないのか
- プレイヤーは特定のオブジェクトに何を期待しているか
- いつ実施するものか
- ゲーム開発の最初期の段階
- 調査に必要なもの
- コンセプトアート
- ストアイメージのモックやコピー
- ストーリー(テキスト)
- 先行作品や競合作品
- コンセプトムービー
- 実施方法
- 個別に質問票形式で調査
- フォーカスグループインタビュー形式で調査
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 訴求レイヤー (Appeal)
UX競合分析 (UX competitor analysis)
- どういう問いに答える調査手法か
- どのゲームが最も良い初期プレイ体験を作れているか
- プッシュ通知を送るベストな手法は何か
- セール中のアイテムを販売するベストな方法は何か
- ゲームを進めるとより深みが増してくることをプレイヤーに気づかせるベストな方法は何か
- いつ実施するものか
- コンセプト開発段階
- 調査に必要なもの
- 一連の競合タイトル群
- 実施方法
- 事前にクライアントに質問を用意してもらった上で、競合となるタイトルを2~3つ選択して各要素を調査
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 理解レイヤー (Understanding)
- ユーザビリティレイヤー (Usability)
共同デザイン (collaborative design)
- 共同デザインとは何か
- メタゲームのユーザーフローやUI (特にストアのUI) について、ワイヤーフレームやモックアップのデザイン段階からレビューを行う
- いつ実施するものか
- プロトタイプフェーズ
- 調査に必要なもの
- ワイヤーフレーム
- デザインドキュメント (game design document)
- プロトタイプ
- 実施方法
- 開発チームの中にリサーチャーが入り込み、ユーザビリティ観点でレビューを行う
- 開発チームとは別で、ユーザビリティ観点でデザインの改善策を提言する
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 理解フェーズ (Understanding)
- ユーザビリティフェーズ (Usability)
専門家によるユーザビリティ分析 (usability expert analysis)
- どういう調査か
- 実際にプレイヤーにテストしてもらう前段階で、専門家にレビューし課題点を明らかにする
- いつ実施するものか
- プロトタイプフェーズ
- 調査に必要なもの
- UIのモック
- プロトタイプ
- 実施方法
- リサーチャーが上述の5つのレイヤーに照らし合わせてゲームを評価
- 小規模なモバイルゲームであれば1日、大規模なゲームであれば2日で評価を実施
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 理解フェーズ (Understanding)
- ユーザビリティフェーズ (Usability)
ユーザビリティプレイテスト (usability playtest)
- どういう問いに答える調査手法か
- 操作はターゲット層にとって適切か
- ユーザーは開発が意図した通りにゲームを進めているか
- 最初期のプレイ体験がうまくいっているか
- プレイヤーがアプリ内課金をできているか
- いつ実施するものか
- プロトタイプが完成した直後 (ゲームのコアメカニクスやチュートリアルを評価)
- 調査に必要なもの
- プレイ可能なビルド
- 実施方法
- Player Research では 6人のプレイヤーを集めてテストを実施
- 40分間のゲームプレイ + 15分間のインタビュー
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 理解レイヤー (Understanding)
- ユーザビリティレイヤー (Usability)
大規模プレイテスト (large-scale playtest)
- どういう問いに答える調査手法か
- プレイヤーは設計された体験を楽しんでいるか
- いつ実施するものか
- プロダクションフェーズの後半
- 調査に必要なもの
- 可能な限り多くの機能が入ったプレイ可能なビルド
- 実施方法
- Player Research では少なくとも36人 (12人 x 3グループ) でテストを実施
- ビルドをプレイしてもらった後、アンケートに回答してもらう
- 1時間のゲームプレイ + 25分のアンケート記入 (一部はそのあとグループインタビューを実施)
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- プレイヤーエクスペリエンスレイヤー (Player Experience)
エンゲージメント日記調査 (engagement diaries)
- どういう調査手法か
- 日々のプレイ日記を被験者につけてもらい、長期間 (~30日) にわたるプレイの経過と体験 / 感情の変化を調査
- いつ実施するものか
- ソフトローンチの段階かその少し前
- 調査に必要なもの
- 全機能が実装され、可能な限りブラッシュアップされた状態のビルド
- 実施方法
- 被験者のパネルに一定期間ゲームをプレイしてもらい、そのゲームをプレイする度にアンケートに回答してもらう
- 定量 (特定の機能に対する X 段階評価など) と定性 (その理由) を合わせて記入してもらうことで、定量的な評価とその背景にある定性的な感情や心情の変化を調査する
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- プレイヤーエクスペリエンスレイヤー (Player Experience)
- マネタイズレイヤー (Monetization)
分析ドリブンのプレイテスト (analytics-driven playtest)
- どういう調査手法か
- 大枠はユーザビリティのプレイテストと変わらないが、特定の領域に焦点を当ててアナリティクスの手法を用いて分析した上で、その理由を調査
- アナリティクスで離脱ポイントの特定などを行った上で、その課題の背景にある「なぜ?」を調査
- いつ実施するものか
- ソフトローンチ、ないしはローンチ後
- 調査に必要なもの
- 磨き上げられたゲームプレイ
- 実施方法
- 調査自体はユーザビリティのプレイテストと同様だが、課題点の特定をアナリティクス主導で行う点が異なる
- どのレイヤーをブラッシュアップできるか
- 理解レイヤー (Understanding)
- ユーザビリティレイヤー (Usability)
最後に、上で記載した各手法がどのレイヤーのブラッシュアップに効果的かがヒートマップでまとめられているので、それを引用します。
今回は Player Research という会社で行っているリサーチの手法についての解説となりましたが、実際に他社の現場でも活用できそうなノウハウがまとまっているかと思うので、良い点は参考にし、日々の調査 / 分析業務のブラッシュアップに生かしていきたいと思います。