海外のゲーム分析で用いられている PENS (The Player Experience of Need Satisfaction) モデル

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GEQ (Game Experience Questionnaire) と並んで欧米ではよく使われるらしいモデルである PENS (The Player Experience of Need Satisfaction)。

もともとの提唱が 2007年と古めなため(ちょうどPlayStation3が出たばかりのころ。もちろんスマホなんかない時代)、モデル自体にもやや歴史を感じるものの、ゲームにおけるプレイヤー体験の定量化 / モデル化という点では外せないトピックであるため、ここでも紹介することにします。原文:https://natronbaxter.com/wp-content/uploads/2010/05/PENS_Sept07.pdf

PENS 概要

PENS は Immersyve Inc. というフロリダの会社から提唱された、ゲームの「面白さ」や「満足度」に繋がるプレイヤー体験を評価するためのモデル。

提唱者によれば単に感覚的な「面白さ」を評価するのみならず、ゲームの評価や売上、ロイヤルティ、プレイ継続の予測にも力を発揮するものらしいです (ただ、この辺は具体的な調査や分析の方法が上記の資料には載っていなかったのもあり、個人的には精査は必要かと思っています)。

PENS が生まれた 2007年頃は、コンソールゲームのハイエンド化に伴う開発費の肥大化や市場が要求するクオリティ水準の上昇などゲームの開発史においても 1つの転換期であり、その中で少しでも投資回収できるゲーム開発ができるように、マーケットインのアプローチでリサーチ手法が発展してきた...と考えると面白いかもしれません。

ちなみにこれは余談ですが、Immersyve Inc. はゲーム以外にも主にエンゲージメントやモチベーションといった観点でのリサーチを手掛けている会社らしいです。

PENS の観点

PENS の貢献は、指標とするものをゲームプレイの結果 (Outcomes) から心理的原因 (Psychological Causes) にスイッチさせたところにあります。つまり、PENS が提唱される以前では「ユーザーの行動」といったゲームプレイから生まれる結果を直接指標としていただけだったのに対し、PENS ではユーザー体験のより根本的な要素を測るというアプローチをとることによって、ユーザーの感情表現から「面白さ」を測定したり、より精緻にゲームのコンセプトや機能を評価できると述べられています。

プレイヤーモチベーション

では、そのユーザー体験のより根本的な要素とは何でしょうか?PENS はそれを内発的動機付けに結び付けており、特に「有能感 (Competence)、自律感 (Autonomy)、繋がり (Relatedness)」をその主要因として重視しています。それらの要素のニーズがゲームプレイを通じて満たされているかを評価することで、プレイヤーのモチベーションや満足感を醸成できているかを測るという寸法です。

各論に入るとそこそこ長くなってしまうので、詳細を追いたい方はぜひ上記の論考を読んでいただきたいと思いますが、例えばポジティブなフィードバックを一貫して提供し続けることであったり、楽しさを継続させるには「ストレッチな目標を感じ続けてもらう」のではなく「成功体験を常に感じられる」機能が重要であったり、ゲームプレイを通じてユーザーが習得したものを実践に移す機会を与えるであったり、ゲームの自立感は特に RPG や MMO といったジャンルで面白さと相関が強い指標であったり...。

はたまた、繋がりに関しては他のユーザーとのつながりはもちろんのこと、NPCを通じてユーザーの有能感や自律感を刺激することによってもっともよく満たされるであったり...といった分析の結果から一般的に導き出された知見についても紹介されています。

PENS が「面白さ」のより優れた指標である理由

また上記の論考では、単純に結果の「面白さ」を測った調査結果よりも、PENS ベースで行った調査の方がユーザーの中長期的なロイヤルティの維持であったり、サブスクリプションの継続、ひいてはそこから導かれる売上を予測するうえで有益であるとの分析がなされています。

PENS ベースで行った調査の結果と、単純に結果の「面白さ」を調査した結果をもとに、各々の調査から8か月後のプレイ継続、デベロッパーに対するロイヤルティ、ゲームに価値を感じている度合いといった指標とどれだけの相関があるか、ないしは調査結果から後者の8か月後のユーザー感情を回帰した時の偏回帰係数が有意な値を取るかといった観点から分析がなされています。結論として、従来型の「面白さ」調査よりも PENS の方がいい結果だねという論調なのですが、このあたりは改めてちゃんと精査したい気持ちはあります。

PENS 論考のまとめ (本文より一部抜粋)

Player Experience of Need Satisfaction model (PENS) で Imersyve 社はプレイヤーモチベーションに関する応用的な理論をもたらすことによって、プレイヤーを根本から満足させるものが何かを開発者が理解することに大いに貢献しています。また、Immersyve 社はその価値が証明されている実践的なテスト手法と分析的アプローチについても提供を行っています。

PENS は有能感、自律感、繋がりといった3つの内発的な心理的ニーズについて概説しており、多くのデータが示すところによると、それらはプレイやーの面白さや楽しさ、ゲームの評価の中心となるものです。データを集めてこれらのニーズがどのようにして満たされているかを分析することで、PENS モデルはユーザーの経験面やゲームの商業面でのポジティブな結果をはっきりと、かつ有意に予測することができており、それは多くのケースにおいて伝統的に行われてきた面白さと楽しさの評価よりもはっきりとしたものです。PENS モデルはゲームのジャンル、プラットフォーム、さらには個々のプレイヤーの趣味趣向さえも問わずに、何度もその予測の価値を示してきました。

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