ネットゲーム(といいつつも実際はスマホゲームが中心)のデザイン理論に関する覚書その1。
今回はチュートリアル、その中でもゲームのファーストステップでの離脱を抑えるためのデザインについて書いていく。
ファーストステップとは
ファーストステップに関する明確な定義はない、というよりむしろゲームによって異なるというのが実情。基本的にはファーストステップ = チュートリアルと考えて問題ないが、そもそもどこまでをチュートリアルとみなすかはゲームによって異なる。
個人的には初回ゲームを起動し、オープニングムービーや会話イベント、バトルのチュートリアル、ニックネーム入力などを経て、最初にホーム画面に到着するくらいまでをファーストステップとして捉えている。
ファーストステップで重要なポイント
ファーストステップで特に重要になるのは「離脱の防止」。
ゲームをインストールしたユーザーがその面白さを経験する前に離脱するのは大きな機会損失であり、ファーストステップにおける離脱を極力抑えることがゲーム全体の継続率を高める上でまず考慮しなければならないポイント。
個人的な感覚値としては、リセマラやインセンティブ目的のユーザーを除外したNUUを母集団とした際、ファーストステップの突破率が85%程度あればそこそこ良くて、90%あれば十分高い水準かと思う。もちろん、この値はリセマラの定義や NUU/RUU の定義によって変化するため、あくまで参考値的なものでしかないが。
ファーストステップでの離脱を抑える手法
当たり前のことだが、ファーストステップでの離脱を抑えるにあたって「いかにゲームを初めてすぐにユーザーの気持ちをつかむか」が重要。魅力に欠けるムービー、退屈なイベント展開、陳腐なUIなどはすべてユーザーにネガティブな印象を与え、ゲームを継続しようというモチベーションを阻害させる。
逆に、迫力のあるムービー、ドラマチックでテンポのよい展開、いかしたUIなどはファーストステップでユーザーの気持ちをつかむのに非常に効果的。この点に関してはコンソール/オンライン問わずゲーム業界で蓄積されたノウハウのほかに、小説、映画、ドラマなどゲーム以外の分野で蓄積された知見が大いに役に立つ。非常にクリエイティブな領域。
他に比較的クリエイティブというよりはサービス志向的なものとして、いかに「ストレスフリーな体験」を提供できるかというのも離脱を抑える大きなポイント。タッチ操作の感度やロード時間の長さ、不要な思考ポイントの削除などのほかに、アセットダウンロードのストレスをいかに軽減するかが重要。
アカウント登録
ユーザーIDやパスワードの登録・認証といったいわゆるアカウント登録的な操作はゲーム開始前にユーザーにある程度の操作を要求するものであり、それが億劫でもともとプレイ意欲の高くないユーザーや、登録がうまくいかずゲームを開始できなかったユーザーが一定離脱するポイントである。
会社のポリシーや規約等で導入が必須の場合はやむを得ないが、可能であればファーストステップでアカウント登録操作を入れるのは避けたい。機種変更などでどうしても必要な場合は、チュートリアル終了後にミッションなどと絡めて登録を促したりした方が良い。
ニックネーム入力
わりとどのゲームにも存在しているが故に意識されにくいのが、ユーザーのニックネーム入力。基本的にテキストボックスを選択し、各ユーザーが各々の名前を入力して決定するスタイルが多い。
アカウント登録ほどではないものの、ここでも多少はユーザーに操作を強要する形になるため、プレイ意欲の低いユーザーを中心に離脱が起きやすい。特に、ユーザー間でのニックネームの重複を許可しないシステムの場合、なかなか名前を決定することができずより離脱に繋がりやすい。
離脱をなるべく減らすためには、ユーザー間のニックネーム重複を許容するシステムにしたうえで、さらにデフォルトで設定されている名称があると効果的。
アセットダウンロード
ファーストステップの大きな離脱原因となっているのが、このアセットダウンロード。ダウンロード中は基本的に操作はできず「待ち」の時間となるため、その時間がかかればかかるほど離脱率は大きくなっていく。特にスマホゲームでは「ゲームを始めた時間や環境」「電場状況」「キャリアのデータ利用制限」といった様々な要因が絡み、ある程度大きな容量のダウンロードが入ることでゲームから完全離脱することも起きうる。
電場状況やキャリアのデータ利用制限などはゲーム運営側からはコントロールできない「外部要因」に属するため、これに関しては一定離脱が生じるものとして割り切るしかない。とはいえ、ダウンロード容量を減らしたり、ダウンロードを複数回に分割するなどして離脱を極力抑えることができ、そこに対しては注力するべきである。
ファーストステップでのダウンロードは最小限にする、オプションのダウンロードはゲーム内の設定から各自行えるようにする、アセットダウンロード中にミニゲームを挟む、アセットダウンロード中に初回ガチャを何度でも引き直しできる……といった要素が考えられる。
ステップの区切り
チュートリアルが終了してホーム画面に戻った際や、ストーリーの区切り(例:章の終わり)はユーザーの離脱ポイントとなりやすい。前者は特に「次に何をすればいいのかわからない」ライトユーザーの離脱を生みやすく、開発時には特に丁寧なコンテンツ誘導を行う必要がある。
後者に関しては一時的にゲームを閉じた後、アプリを再開するユーザーも多分に含まれるため完全離脱とは言えない。ただ、一時的な「休止」が完全離脱に繋がらないよう、ユーザーの目標感を醸成したりpush通知で反復ログインを促すなど、ゲームを再開するフックを用意しておく必要がある。