今注目されているZ世代の特徴について一冊の本とともに考える

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Z世代を理解する

今、Z世代に大きな注目が当たっている

1990年代中盤、ないしは2000年序盤以降に生まれた人々をまとめてZ世代と呼ばれる。マーケットの最先端にいる彼らが今後のトレンドを作る原動力になるとして、近年、マーケティング界隈でZ世代に対する注目が一気に熱を帯びてきた*1

『愛の不時着』や『梨泰院クラス』、タピオカブームや瑛人さんの「香水」などはすべてこの世代が火付け役となって大ブームに繋がったとされている*2。ゲームの業界では「荒野行動」がまさにこの世代に受けて大きなヒットにつながったと考えられている*3

アメリカでは既に3~4年ほど前から着目されては来たが、ようやく日本でも大きな脚光を浴びる形になったと言える*4

Z世代の特徴は何か?1冊の本とともに考える

マーケットアナリストの原田曜平さんは著書『Z世代:若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』において、Z世代を理解するキーワードは「チル」と「ミー」であるとしている。

チルとはもともとアメリカのスラッパーたちのスラング「chill out (まったりする)」から来ているらしい。Z世代の中では例えば「ネフリでチルってる (=ネットフリックスを見ながらまったりしている)」というような用い方をされる言葉だ。

ミーは原田さんの造語で、Z世代の「一見見えにくい過剰な自意識」を彼は「ミー意識」と呼んでいる。ただし、これは欧米のような個人主義化でもなく、あくまで彼らの特徴である同調志向の中で自意識を高めるという、上の世代には大変理解しにくい感覚なのだという。

この本を読んでいて、この感覚はミレニアル世代 / ゆとり世代である自分にとってもなかなか理解するのが難しいものだと感じた。一方で、その感覚の差がマーケティングにおける消費者理解の不足を生みかねないという不安や恐怖も覚えた。

マーケティングに限らず、企業の経営人材のマネジメントにおいても、Z世代や彼らに先導されて作られる社会の雰囲気を理解しないと誤った判断を生んでしまうだろう。この本やその他各社が出しているレポートなどを参考に、そして何より実際に彼ら/彼女らと会って話すことでその感覚を養っていかないといけないと感じた。

Z世代を調査している機関やレポート

前掲の原田さんの著書は市場調査による定量的な評価だけでなく、彼自身がZ世代に該当する若者と日々過ごす中で得られた知見も織り交ぜて解説されている。そのため、彼らの考え方や行動の背景に定性的な考察がなされている点で非常に参考になる。

一方、Z世代に関する調査は他にも様々な機関によって実施されている。マッキンゼー社*5やデロイトトーマツ社*6は複数の国におけるZ世代の傾向を定量的に調査している他、アメリカではPew Research Centerが世代に関する様々な情報を提供している*7。アメリカに関する調査は2018年にJETROがデスクリサーチを行ったまとめを提供している*8

これらのレポートはとても参考にはなるが、用いている調査手法がアンケートによる定量調査である点には注意が必要だ。Z世代という集団の傾向を測るうえでは有用だが、その回答の背景にある心情まではアンケートは答えてくれないため、その解釈を行う際に無意識のうちに非Z世代のフィルターが入っていないかを注意して読む必要がある。

その点、原田さんの示唆もポスト団塊世代の中年男性からみたZ世代観なのだが、実際に彼らと多くの時間を接することで得られた知見は表面的な理解を超えた深みがある。

一方で、Z世代の多様性に対する理解も重要

言うまでもないが、Z世代と言われる人々が皆同じような思考を持っているわけではない。世代論はあくまで集団として彼らを見たときにより多くの人に当てはまる傾向を述べているに過ぎない。

例えば、デジタルネイティブと呼ばれている彼らの中でも10%程度はLINEを使用していないことが『Z世代白書 2020』からもわかっている*9。Z世代の誰もかれもが毎週タピオカドリンクを飲むわけでもない*10。マスやトレンドを狙う上では支配的な傾向を押さえる必要はあるだろうが、実際のマーケティングでは彼らの中でもどういった層や特徴にむけて訴求していくのかを考えるのが大事だろう。

ゲームのマーケティングにおける示唆

ちなみに、ゲームのマーケティングを担っている身としては、Z世代における「同調志向」という特徴が非常に面白かった。言葉はやや汚いが、周りに触発される形で大勢が雪崩を打ったように行動しはじめる「連れション離職」や「連れションバイト」がZ世代では多く見られるという。

ちなみにこれは、その上のゆとり世代に見られる「同調圧力」とは違った感覚らしい。同調圧力は「KY」や「mixi八分」のような「ムラ」における拘束的な協調だったのに対し、同調志向にはそこまで重苦しい意味はない。

これがゲームのマーケティングとどう関係するか。端的に言えば、そういった同調行動を生み出す最初のとっかかりが生まれないともはや流行させるのは難しいのではないかという仮説に繋がる。「モンスターストライク」も「荒野行動」も仲間内で一緒に遊ぶ体験が流行と拡散に寄与したと考えられる。最近ではPCゲームの「Valheim」がのヒットが目覚ましいが、同タイトルは友人を積極的に誘うようデザインしたこともヒットの要因と考えられている*11

友だちと遊ぶという体験は別に今に始まったわけではなく、過去を振り返れば「大乱闘スマッシュブラザーズ」も「モンスターハンター」も「どうぶつの森」にも同じことが言える。ただし、もしかするとそのハズり方に違いはあるかもしれない。Z世代と言われる人々の感性や行動を理解し、その同調志向にあったバズらせ方を考えていくのも、今後ゲームのマーケティングを考える上で大切ではないかと思う。

*1:Googleトレンドを見ると、2021年に入ってからやや検索数も伸びているように見えるhttps://trends.google.co.jp/trends/explore?geo=JP&q=%2Fm%2F03xvj3

*2:原田曜平『Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』

*3:日本のZ世代にはモンストや荒野行動が人気。若年層のモバイル利用動向にフォーカスしたレポートがApp Annieで公開に

*4:次世代を担う「ミレニアル世代」「ジェネレーション Z」 -米国における世代(Generations)について- https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/ec095202b7547790/ny201810.pdf

*5:Generation Z characteristics and its implications for companies | McKinsey

*6:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/about-deloitte-japan/millennial-survey.html

*7:https://www.pewresearch.org/topics/generation-z/

*8:次世代を担う「ミレニアル世代」「ジェネレーション Z」 -米国における世代(Generations)について- https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/ec095202b7547790/ny201810.pdf

*9:出典は前掲の原田さんの本より。

*10:ちなみに前掲書によればコロナ禍前では全国の女子高生の10人に1人が週1回以上タピオカドリンクを飲んでいたとのことだ。

*11:異例のヒットを記録したゲーム「Valheim」の世界観は、いかに生まれたのか:開発者が語る制作の舞台裏 https://wired.jp/2021/05/09/valheim-survival-game-richard-svensson-interview/